年齢や性別、国籍や障害の有無に関わらず、すべての人が安心して旅行を楽しむための取り組みとして注目を集める「ユニバーサルツーリズム」。Feel Recordsが所在する兵庫県では、全国に先駆けて「ユニバーサルツーリズム推進条例」が公布されています。
その一環として、Feel Recordsで聴覚障害者の方々を対象としたレコード体験のモニターツアーが行われました。「音楽を感じる」という新たな体験の可能性を探るツアーを企画されたNPO法人「ぷろじぇくとPlus」の衣川さんに、その背景や参加者の感想を伺いました。
「ぷろじぇくとPlus」では、どのような活動をされているのですか?
但馬圏域で、障害者雇用の相談や福祉サービス事業、障害児・者の相談支援事業を運営しています。
2016年からは兵庫県ユニバーサルツーリズム推進事業にも携わり、主に但馬地域での取り組みをサポートしています。ユニバーサルツーリズムコンシェルジュのネットワークを形成し、情報発信や共有、旅行者受け入れの環境整備など、多岐にわたる活動を行っています。
今回のモニターツアー開催の経緯を教えてください。
Feel Recordsがある但馬地域では、これまでに身体障害者の方が自然を楽しむモニターツアーを実施してきました。それらの実績を基に、兵庫県から聴覚障害の方のツアーの企画を求められました。
企画を検討する中で、以前に伺ったFeel Recordsでの体験を思い出し、直感的に聴覚障害者の方でも音楽を楽しんでもらえるのではないかと考え、今回のツアーを依頼させていただきました。
Feel Recordsでのモニターツアーが実現するまでに反対意見もあったと伺っています。そのような状況でも企画を推進された背景を教えてください。
確かに、「聴覚障害者に聞こえる人の文化を押しつけるべきではない」、「聴覚障害者には音楽体験は難しい」といった意見もありました。
しかし、Feel Recordsの環境であれば、聴覚障害をお持ちの方でも必ず音楽を楽しんでもらえるという確信がありました。何よりも、参加を希望されたモニターさんがレコードの鑑賞をとても楽しみにされていたことが、企画を推進する大きな理由となりました。
実際にFeel Recordsでのモニターツアーを行われて、どのような印象をお持ちですか?
レコードが再生されてからすぐにモニターさんたちの表情が変わり、OKポーズを取られたので安心しました。次第にモニターさんたちが体を揺らしリズムを取り始めたことに驚き、とても感動しました。
今回のモニターさんは、カラオケには行かれるそうですが、実際に音楽を感じたことがないとのことで、以前から音楽に強い興味を持たれていた方でした。レコードには人間の耳では聴こえない音も収録されているそうですが、耳だけでなく身体全体で聴くものとして、レコードならではの良さがあるのかもしれません。
この取り組みはレコードの新たな可能性を引き出すものであったと思います。同時に、聴覚に障害をお持ちの方でも音楽を感じられる、楽しめるという可能性を示すことができたと考えています。
モニターさんからは、ドラムやピアノ、歌声を感じることができたと伝えられ、予想を超える体験だったことを実感しました。手話通訳の方からも同様の感想をいただき、今回のチャレンジを行って本当に良かったと感じています。
聴覚障害者の方に向けたFeel Recordsのサービスの可能性については、どのように感じられましたか?
モニターツアーではUDトーク(音声認識や自動翻訳を活用したコミュニケーション支援アプリ)や伝言ボードを使ってご説明いただきましたが、伝えきれなかった部分もあったと思います。
伝えたい内容を予め作成して提示したり、アプリや伝言ボードで補足を行うと、会話がよりスムーズになると感じました。モニターの方からは、レコード体感でカラオケのように歌詞の表示があれば、もっと楽しめるのではないかというご意見もありました。
耳が聞こえない、聞こえにくい方でも音楽を体感できる場として、また健聴者の方が改めてレコードの良さを体感する場として、Feel Recordsの可能性を感じました。多様な人々が音楽を楽しめる新しい形のツーリズムとして、今後の発展を期待します。
高齢化社会の進展や障害者権利条約の採択を背景に、観光のニーズが多様化しています。今回のモニターツアーは、誰もが楽しめる場所づくりの重要性を再認識する貴重な機会となりました。
音楽には、人々をつなぎ、心を癒す力があります。Feel Recordsは、この音楽の力を活かし、年齢や障害の有無に関わらず、誰もが楽しめるレコード体験を提供できるよう、今回の経験を活かしていきたいと思います。