棚主が厳選した多彩なジャンルのレコードが並ぶ、京都はなれ店のシェアレコード。名古屋の「SORC」や鳥取の「borzoi records」など、全国のレコード店によるセレクトをお楽しみいただけるこの場所に、新たに『HEIMA』が加わりました。
実店舗を持たないセレクトレコードストアとして、現在はオンラインを主体に運営されているHEIMAでは、北欧などの音楽や雑貨が取り扱われています。ここでは、オーナーの高木さんに、お店のこだわりや北欧音楽の魅力についてお話を伺いました。
セレクトレコードストアHEIMAのご紹介をお願いします。
神奈川県藤沢市に拠点を置く店舗のないセレクトレコード店です。オンラインストアをメインに、不定期でポップアップやイベント出店を行っており、北欧とイギリスのレコードやカセットをセレクトしています。
また、音楽とともにお楽しみいただける雑貨として、アイスランドのバンド Sigur Rós(シガー・ロス)のフロントマンである Jónsi(ヨンシー)が家族経営する香水ブランド兼アートコレクティブ「FISCHERSUND」のプロダクトもお取り扱いしています。

レコードやカセットは、どのような作品をセレクトしているのですか?
アイスランド・デンマーク・フィンランド・スウェーデン・ノルウェーといった北欧とイギリスにフォーカスしたセレクトを行っています。そのため、アンビエントやフォーク、エレクトロニカ、シューゲイザーにポストロックまで、様々な作品をジャンルレスにご紹介しています。
HEIMAを始めたきっかけを教えてください。
10代の頃から音楽活動をしたり、ライブハウスで働いていたこともあり、この先も音楽に関わる仕事がしたいというのが一番の理由でした。
そのなかで、普段聴いている音楽が国内で取り扱われていないことが多いと感じたのが、レコード店を始めるきっかけです。そのような作品は、レコードと同等の送料を支払って海外通販サイトで購入しなければいけないといったケースもあり、世の中に知られる機会も少なかったりします。
「世界には素敵な作品がたくさんあるのに、気軽に購入できず、知られないなんてもったいない。それなら自分で販売する場を作ろう」と考え、HEIMAを立ち上げました。
実際にHEIMAを始められて、いかがですか?
意外にも「この作品を日本で取り扱ってくれて嬉しい」、「作品について知らなかったけど、聴いてみたらすごくよかった」といった声をいただくことも多く、お店を始めて良かったなと実感しました。
自分の好みだけでセレクトしていると、良かったものも見逃しているかもしれないと感じることがあります。思いがけず紹介してもらったものが自分に合っていたり、さらにその物事によって新しい人々との出会いに繋がったり。HEIMAを知ってくださったことによって、その人にとって前向きな出来事に繋がってくれていたら嬉しいなと思います。

オンラインショップという形を選ばれたのはなぜですか?
本業はシステムエンジニアとして働いているのですが、当面はエンジニアの仕事も継続しながらレコード店も運営したいと考えて、ちょうど良いバランスが取れるオンラインショップという販売形態を選びました。
最近はイベントへ出店させていただく機会もあり、顔を合わせてお客様と会話ができることのありがたみも実感しています。今はフィジカルストアのオープンに向けて少しずつ準備をしています。
北欧音楽との出会いについて教えてください。
10年以上前、テレビから流れてきたBGMに瞬時に釘付けになったことがあります。当時はまだShazamのような検索アプリはなく、記憶にある音の感触を頼りに、抽象的なキーワードを組み合わせて、必死に検索を繰り返していました。今考えると絶望的な語彙力なのですが、奇跡的に辿り着いたのがイギリスの「Kyte(カイト)」というバンドを紹介するブログでした。
それからさらに検索したところ、ようやく探し求めていた正体に巡り会うことができました。それが、アイスランドのバンド Sigur Rós の『Hoppípolla』という曲です。
それまでの人生では聴いたことのない世界観に衝撃を受け、そこから他のアイスランドの音楽を掘るようになり、しばらくはアイスランドの音楽ばかりを聴いていました。元々北欧食器や雑貨が好きだったこともあり、「では他の北欧諸国の音楽はどんな感じなのだろう?」と興味を持ち、デンマークのバンド MEW(ミュー)や Efterklang(エフタークラング)を掘りはじめ、今に至ります。

北欧音楽の魅力を教えてください。
すべての作品に言えることではありませんが、どこか前衛的で実験的な、独自の空気感を持つものが多いと感じます。
以前、あるアイスランドの音楽家さんとそんな話をしていた時、「この地域の人たちは、誰かのためじゃなく自分のために作品を作っている人が多いのかもしれない。そしてそういう人たちは売り上げのこともあまり気にしないんだ」と話してくれたのが強く印象に残っています。
打算のない情熱から生まれる作品から感じられる揺るぎない芯や、作り手の人間性が色濃く反映されたその純粋さに惹きつけられているのかもしれません。
おすすめのアーティストを教えていただけますか?
お取り扱いさせていただいているアーティストさんはすべておすすめで選びきれないので、まだお取り扱いのない作品を2つご紹介させていただきます。
Vetle Nærø – All Moments Must Pass
ノルウェー在住の作曲家・ポストクラシカル・アンビエントアーティスト Vetle Nærø さんの4枚目のアルバムです。繊細なピアノやエレクトロニクス、フィールドレコーディングで「無常」をテーマに綴られている美しい作品です。
Mikael Lind – Norðaustur
アイスランドのレイキャビクを拠点に活動する、スウェーデン出身の作曲家・エレクトロニカ・アーティスト Mikael Lind さんの最新リリース作品です。巨大な魚油タンク内で行われた、映像と音のインスタレーションを起源とする実験的な作品で、静謐なアンビエントから力強いドローン、モダン・クラシカルまでを横断するサウンドの没入感が素晴らしいです。

現地にレコードの買い付けに行かれたりもするのですか?
去年の6月にアイスランドへ、今年の1月にはフィンランドへ買い付けに行きました。今年の8月には再びアイスランドへ買い付けに行く予定です。
北欧のレコードショップはどんな雰囲気ですか?
私が訪れた中では、デンマークのとあるレコード店がインテリアにもこだわっていて一番印象的でした。いわゆる北欧デザインと呼ばれるような照明やチーク材の家具が余白を持って配置されていて、さすがヒュッゲの国だなと思いました。
アイスランドの有名なレコード店 12tonar では、1階にはコーヒーカウンターがあり、地下に大きなソファ、テーブルには遊び掛けのチェスが置かれているのも興味深かったです。単にレコード店というよりは、音楽好きの社交場的役割を担っているような印象を覚えました。
将来的にフィジカルストアを構えるなら、コーヒーなどを片手に音楽好きの方々が交流できるような場を作りたいと考えているので、12tonar はまさに理想のお店でした。

北欧におけるレコード文化の現状を教えてください。
北欧は世界で最もストリーミングが普及した地域とも言われているそうですが、その一方で独自性の高いインディペンデントレーベルが非常に多く存在していると感じています。そうした小規模なレーベルが、地元のレコードショップと密接に結びつき、コミュニティのハブとしての役割を担い、新しい交流やイベントが生まれていくといったような、地域に根ざしたサイクルが音楽シーンを活性化させているのかなと思います。
京都はなれ店で販売されているシェアレコードは、どのようなセレクトですか?
今はタイトル数も多くないため、まずはオンラインショップと同じ内容をストックさせていただいています。今後はどういった作品が好まれているのかなども様子を見ながら、セレクト内容もブラッシュアップしていければと考えています。

最後に、高木さんが思う、レコードの魅力を教えてください。
効率的で便利になった世の中において、あえて無駄な手間を選択し楽しむというところが魅力だと考えています。レコードで音楽を聴こうとすると、まずジャケットから盤を取り出し、次に針を落としますよね。埃がついていれば拭き取ったりもします。そして片面の再生が終われば、今行っている作業を一度中断し席を立ち、盤を裏返します。
音楽を指先一つで瞬時に再生・スキップできる便利な現代において、一見不便に思える手間に時間を割く。そうして自分のためにあえて時間をかけてあげられることは、自分自身の人生を主体的に生きているような気がしますし、幸せなことだなと思います。