私たちは何を通して世界を見ているのでしょうか。そして、見えていると信じているものは、本当にそのままの姿なのでしょうか。
2026年8月23日から、Feel Records 京都はなれ店「ギャラリーにかい」にて開催される『眼差しをほどく』では、アーティスト・出村実英子と写真家・渋谷美鈴が、それぞれのスタイルで「見えているもの」について問いかけます。
見ることの不確かさや、他者との間に生まれる見え方の違い。このテーマに挑むふたりのアーティストの眼差しに迫ります。
見る人の思考を静かに促す――出村実英子の原点と表現
自己紹介をお願いします。
出村実英子と申します。結城紬(ゆうきつむぎ)工房で着物や帯の製織に携わった後、自身の表現を探究するために、京都芸術大学で染織を学びました。
2005年より極細繊維を用いた透過性のある作品の制作を開始し、近年は素材や技法の枠を超え、人間が世界をどのように見ているのかを主題として制作しています。

影響を受けたアーティストや作品を教えてください。
多くを語らず、鑑賞者の思考を静かに促す表現に惹かれています。その原点となったのは、染織家の志村ふくみでした。天然染料で染めた糸を使った着物や帯の色彩の美しさに魅了されました。
その後、タペストリーやインスタレーションへと作品が変化するにつれ、最小限の要素によって豊かな余白を生み出すマーク・ロスコ、李禹煥、内藤礼らの作品に強く惹きつけられるようになりました。宮永愛子、池内晶子、伊庭靖子らの作品からも多くの示唆を受けています。
作品で表現しているものは何ですか?
私は、「そこにあるものを見る」とはいかなる経験なのかを問い続けています。その問いを探る方法として、これまで半透明の素材を用いてきました。作品を通して、私たちが見えていると信じているものの不確かさを静かに示したいと考えています。
先入観をほどいた先に見えるもの
展覧会のテーマ「見えているもの」について、どのように表現されますか?
真綿を引き伸ばした薄い布を、人が世界を見るときの先入観に見立てています。本展では、作品の前を移動しながら、光や空気、距離によって見え方が変化する様子をご覧いただければと思います。その変化を通して、ご自身がどのように世界を見ているのかに意識を向けていただけると嬉しいです。

出村さんにとって、表現とは?
私にとって表現とは、作品から次の問いを見いだすことです。
一つの作品が完成すると、すぐに次の問いが生まれます。五感を研ぎ澄ましながら立ち現れる世界を手がかりに制作を重ね、その問いを次の作品へとつないでいきます。そうした制作は、私にとって禅問答にも通じる営みだと感じています。

出村 実英子
茨城県生まれ、奈良市在住。結城紬の工房で着物・帯を製織する仕事に就いた後、京都芸術大学にて芸術としての染織を学ぶ。2005年より極細繊維を使った透過性のある作品制作活動を開始。近年は素材や技法の枠を超え、人間の知覚そのものを問い直す作品を展開している。
近年の展示・受賞歴
- 2026/2025|春の特別拝観「呼応」/ まるごと美術館春(妙蓮寺/京都)
- 2026|From Tyne to Kamo(Vane gallery/英国、Art Spot Korin/京都)
- 2025/2023|現展(現代美術家協会展)会友賞・新人賞
- 2024|そこにあるもの(テレスコープ/京都)
- 2024|存在と蔭(TIPAプロデュース:江之子島文化芸術創造センター/大阪)
- 2023|蔭像(Art Spot Korin/京都)
- 2022/2021|スウェーデン×日本 染織国際交流展(ギャラリーマロニエ/京都・エーケビホーブ城ギャラリー/スウェーデン)
曖昧な感覚をかたちに――渋谷美鈴の原点と表現
自己紹介をお願いします。
写真家の渋谷美鈴と申します。大阪を拠点に商業フォトグラファーとして活動しながら、作家としても作品を制作、発表しています。
もともとはグラフィックデザインを学んでいましたが、写真の面白さに出会い、技術を身につけるために撮影スタジオのアシスタントとなりました。その経験を経て、フォトグラファーとして活動するようになり、2016年からは作家としても歩み始めました。

影響を受けたアーティストや作品を教えてください。
学生時代に出会い、特に衝撃を受けたのは、やなぎみわさんです。写真集『マイ・グランドマザーズ』を見たとき、一枚の写真の中に、これほど豊かな物語や時間を込めることができるのかと感動しました。現実には存在しない場面でありながら、その人物の人生を想像させ、見る側も自分自身を重ねられるような、物語性と没入感のある表現に強く惹かれました。
同じく学生時代に、ホームページで作品を拝見していた池谷友秀さんの水中写真にも、大きな影響を受けています。水の中でしか生まれない身体の動きや光、浮遊感の美しさに魅了され、それから10年ほど経って、私自身も水を使った作品を制作するようになりました。写真家として活動を始めてからは、池谷さんに制作や写真について、さまざまなことを教えていただいています。
また、写真だけではなく絵画を見ることも好きで、特に上村松園さんと東山魁夷さんの作品に惹かれます。静けさの中にある凛とした美しさや、現実を描きながらも、どこか精神的な世界を感じさせるところが好きです。
美しい物語や写真、絵画など、自分が心から美しいと思えるものに触れると、心が癒やされます。私にとって、それがアートを鑑賞する最大の楽しみであり、作品をつくるうえでの原点の一つでもあると思います。

作品で表現しているものは何ですか?
私が作品で表現しているのは、言葉ではうまく説明できない感情や、日常の中で感じる違和感です。憧れや美しさだけでなく、その裏側にある葛藤や嫉妬、理想と現実のずれなど、自分の中に同時に存在するさまざまな感情を、女性の身体や物語を通して表現しています。
写真に写っているのは目の前にいる人物ですが、そこには私自身の記憶や感情、ものの見方も重なっています。作品をつくることは、自分の中にある曖昧な感覚を、目に見えるかたちとして残すことだと思っています。
写真の枠組みを超えた新たな試み
展覧会のテーマ「見えているもの」について、どのように表現されますか?
今回は過去の写真作品に加え、写真の上に岩絵具や天然石を重ねたり、極薄の和紙とともに写真を箱の中に閉じ込め、写真そのものを見えにくくするなど、私自身にとっても挑戦的な手法を用いた作品を展示します。
そこには、「目の前に見えているものは、本当に正しいのか」「答えはどこにあるのか」といった問いとともに、一つの物事の中に相反する側面が同時に存在するという、物事の二面性を込めています。
私は写真という表現がとても好きですが、写真を一枚の平面として完結させず、異なる素材や空間を含む作品へと展開したのは、今回が初めてです。これまで私の作品を知ってくださっている方には、特にその変化や新しい試みを見ていただきたいと思っています。

渋谷さんにとって、表現とは?
私にとって表現とは、自分と世の中をつなぐためのものです。
言葉だけでは伝えきれない感情や考えも、カメラを通して作品にすることで、誰かに届けたり、共有したりすることができます。また、作品をきっかけに人と出会い、自分とは異なる感覚や考え方に触れることもできます。
私は普段、一人で過ごすことが多く、休日にはあまり人と話さずに過ごしてしまうような人間です。だからこそ、仕事でも作家活動でも、カメラや作品を通して人や世界とつながることができて、本当に良かったと常々感じています。表現は、私が外の世界と関わるための大切な手段です。

渋谷 美鈴
1988年、兵庫県生まれ。グラフィックデザインを勉強中、写真に出会いフォトグラファーを志す。2017年より写真家としての活動を開始。近年は写真とミクストメディアを使用した表現を取り入れている。
近年の展示・受賞歴
- 2026|icon CONTEMPORARY PHOTOGRAPHY(SHIBUYA SACS / 東京)
- 2025|Eclipse 美はどこに宿るのか (Art Gallery M84 / 東京)
- 2024|goddess(TIPAプロデュース:江之子島文化芸術創造センター / 大阪)
- 2024|ART ICON “Corporeality”(Bastille Design Center / フランス)
- 2023|BEYOUD THE AGES/PORTRAIT(SansiaoGallery / 東京)
- 2025|PX3(パリ写真賞)「advertising beauty部門」銅賞
- 2022|TIFA(東京国際写真賞)「advertising beauty部門」銀賞
出村実英子×渋谷 美鈴|眼差しをほどく -Unraveling Vision-
会期:2026年8月23日(日)~8月30日(日)10:00~18:00
※休廊日:8月24日(月)、25日(火)
入場無料
出村実英子 Instagram|https://www.instagram.com/mieko_demura/
渋谷 美鈴 オフィシャルサイト|https://www.shibuyamisuzu.com/#1